これはあいだ。

すきのはなし。

緑の眼をした、正直者。

オセロー 全38公演、お疲れさまでした。

 

翼くんの代役でオセロー出演と発表されたのが5月3日で、初日の9月2日、千秋楽の26日まで 待ち遠しいなぁと思いながらも気がつけばあっという間に過ぎ去ってしまった。私自身、シェイクスピアの作品に触れるのは今回が初めてで 学生時代に少し教科書で見たかな〜くらい。あらすじに目を通すと、神山くん演じるイアーゴーは悪役で あぁ〜これはおたくが見たい神山くんじゃん…!ってなったのを覚えてる。共演者の方々が豪華すぎて、ここに神山くんが…!って恐れ慄いたことも、、懐かしいなぁ。

 

 

シェイクスピアに初めて触れた私のオセロー感想、忘れないように書いておきたいなぁと思う。完全に主観だし、シェイクスピアも蜷川イズムの作品に触れるのも初めてだから解釈違いもあるかもしれないけど…。

 

 

 

神山くんはオセローの会見で"イアーゴーのこと、コイツ嫌い!"って思っていただけたら…って言っていたけど、私は最後までイアーゴーのこと「コイツ嫌い!」ってなれなかった。もしかしたら、神山くんが演じているということで何重にもフィルターをかけて見てしまっていたのかもしれないけど、それでも神山くんが演じるイアーゴーは ただ悪いだけの人間にはどうしても見えなかった。

原作を読んだときは、すごい嫌なやつだな!!って思ってた(し、今でも原作を読むと嫌なやつだ!!って思う)。嫉妬の果てに色んな人を陥れ、オセローをはじめ デズデモーナや自分の妻であるエミーリアまで死へ追いやってしまう、極悪至極って言葉がぴったりと当てはまるような人物だなぁと。こんなに嫌なやつを神山くんが演じるのかぁってドキドキしたし楽しみだった。

 

オセロー初日の幕が開くと、イアーゴーめちゃくちゃ嫌なやつだけど嫌いになれないな…と思ったのが第一印象で。公演数を重ねて 自分の観劇数も増えていくうちに表情の変化や動作の変化をより一層捉えることができて そこにはただ極悪至極なだけじゃない、緑の目をした怪物でもない、人間らしいイアーゴーが存在していた気がする。

 

イアーゴーはきっと、誰も死なせるつもりはなかったんじゃないかなぁと私は思う。オセローのことも、キャシオーのことも(原作ではロダリーゴーは死んでないんだよね)。ただ、副官になりたかった、キャシオーを副官の座から引きずり下ろして自分が副官に、はじめはその思いで動いていたんじゃないかなって。

じゃあデズデモーナとキャシオーが不義を働いた話はしなくても良いのでは…?と思うけど、イアーゴーは オセローもキャシオーもエミーリアと不義を働いたことがあるらしい って言ってたから、副官になれなかったことへの嫉妬とエミーリアを寝取られたかもしれないことへの嫉妬が重なってそうさせたのかもしれない。緑の目をした怪物だったのはオセローでもあるけど、イアーゴー自身のことだったのかな。

 

オセローはイアーゴーが思っていたより嫉妬深い人間だったんじゃないか、、人種の違いを逆手にとって イアーゴーがそう焚きつけたのでもあるけど…。

"悪事はやってみないことには、その素顔は見えてこない"

とイアーゴーが話すように、オセローが現した嫉妬という素顔に もう後戻りは出来ないと取り込まれてしまったのはイアーゴーなんじゃないか。元はと言えば全てイアーゴーが原因なんだけど、そこは計算違いだったんじゃないかなぁと感じてしまった。

 

 

私は、極悪至極のイアーゴーが時折見せる人間らしい部分がとても好きだった。

デズデモーナを殺すと話すオセローに「奥様のことは生かして」と言い 悔しそうなやりきれない表情をする姿も、デズデモーナに泣き縋られ宙を舞う手も、泣かないでと寄り添うのも、エミーリアを刺す前に一瞬戸惑う間も、刺して逃げるときに一度エミーリアを振り返るところも。正直なイアーゴーはきっとあの部分に表れているんじゃないか、と思う。だから嫌いになれなかった。自らが招いた結末とはいえ、複雑そうなイアーゴーの表情、仕草を見ると胸が苦しくなった。

イアーゴーもきっと、嫉妬という緑の目をした怪物に狂わされた人物のひとり、なんだろうな。

 

 

原作を読んだとき、イアーゴーとエミーリアの関係に疑問を持っていて。この2人の間に愛は存在するの…?って思ったし、イアーゴーはもう少しエミーリアに優しくしてよ!とも思った。それなのに、寝取られ妄想に嫉妬する。私の中であまり上手く繋がらなかった。だけど、舞台上にいるイアーゴーとエミーリアの間には 確かに愛が存在していたと思う。度々見せるアイコンタクト、ハンカチのシーンでの距離感、刺す間際のやり取りも、全部、あれはきっと ちゃんと好き同士の空気感だった。

 

ハンカチを盗んでこい!なんて、わざわざ"盗んでこい"って言葉を使わなくてもいいのにね、イアーゴーだったらもっと上手く言うことだって出来ただろうに。でもイアーゴーはエミーリアの前では取り繕わずにいられたんだろうなぁ。何もオブラートに包むこともなく、素のイアーゴーでいられたのかもしれない。エミーリアはイアーゴーに従順な妻だったと思う。ハンカチを盗んでこいと言われたら盗んでくるし、亭主を皇帝にできるなら浮気の一つや二つやりますよ とデズデモーナに話す。純粋潔白なデズデモーナに対してエミーリアは モラルの低い女性 だとみなされてきたらしい。でもこれはきっと、エミーリアなりのイアーゴーへの愛なんだと思う。そんなエミーリアが大好きだった。ハンカチを渡すときお互いの腰に回した手も、刺されるときにイアーゴーのほっぺに添える手も、またイアーゴーがエミーリアを強く抱きしめる手も、全てに愛があったんだと 今思い出しても切なくて悲しい。

 

 

ラストのシーン、原作には無くて 初日見たとき理解に苦しんだ。イアーゴーはその後も生きるのか、夜襲にきたのは何者なのか、このシーンが何を意味しているのか。

色んなこと考えて自分なりに考察してみようと試みたけど、難しい。私は、イアーゴーは死んだと思ってなくて。脚をやられていたけど致命傷にはなっていないと思うし、オセローが「死ぬのは幸せだからな」とも言ってたから。きっと1人だけ不幸にも生き残ってしまうんだろうなと思う。じゃあ夜襲にきたのは?って、これに関してはまだよく纏まってない。イアーゴーの差し金かとも思ったけど、夜襲が終わったあと起き上がったイアーゴーは動揺したような驚いたような表情をしていた気がする。最後にベッドに寄りかかったイアーゴーの表情を見ても、口角を上げることなくただただ上の方を睨みつけるだけ、黒眼が無くなってしまうんじゃないかってほどに。

 

色んな捉え方があって、個人の意見があって良いんだと思う。でもいつか、神山くんは何を思って演じたのか、神山くんのイアーゴーとしての解釈を聞けたら良いなぁと思う。

 

 

 

神山くん、25日間全38公演 休演日なしの3時間45分を1日2回、本当にお疲れさまでした。

 

想像しようにも出来ないくらい、大変な毎日だったと思う。ラジオでも雑誌でも、オセローのことを話すたび"台本を開くのが怖い、ノイローゼになりそう"といつになくネガティブな言葉を発していてすごく動揺した。この数年応援してきて、そんな姿を見た事が無かった気がするから。台詞の量も、共演する方々も、翼くんの代役だってことも、色んな要素がプレッシャーになっているのではないかと少しばかり不安になったりした。過保護婆は卒業したはずなのになぁ、どうにもダメだ。

 

初日の幕が開いて、イアーゴーを演じる神山くんは 演じる という言葉がどこか不相応なくらい、イアーゴーとして生きていた。身も心も イアーゴーに捧げたかのように。カーテンコールでもイアーゴーのままお辞儀をしていて、芝翫さんが神山くんの手を取って振ってくれるまで、そのままだった。きっと芝翫さんが手を取ってくれなかったら、全ての幕が降りるまでずっとイアーゴーだったと思う芝翫さん、すごくお優しい方だったな)。ただ、終わったぁ〜…って言ったときのあの表情は間違いなく神山くんだったよね、あのときの ふわぁっとした会場の空気はきっとこの先味わうことはないんじゃないかなぁと思う。

 

公演のちょうど中日くらいにあった歌番組も、こんな役を演っている最中にアイドルとして出るのは大変だろうなと思っていた。でも、役とアイドルの切り替えは出来る人だと思っていたから、大丈夫だろうと思う部分もあって。だけど、テレビ画面に映る神山くんはいつもの神山くんじゃない、イアーゴーの姿が見え隠れしていた。舞台終わりで駆けつけたからアイメイクが濃かったのもある、でもいつもの感じでは無かった と思う。私の中ではわりと衝撃だった。ちゃんとアイドルの神山くんは戻ってくるのかな、って今思うとよく分からないけど 胸がざわっとして不安になった。それくらい、神山くんはこの一ヶ月間 イアーゴーとして日々を生きていたんだと思う。

 

芝翫さんが「シェイクスピアならではのセリフを血とし肉とし皮とし、脳みそと心が伴って動き出すようにしないと」と言っていたんだけど、きっとそうなんだろうな。イアーゴーに捧げていたのかもしれない、神山くんの全てを。

 

初日の姿を見ていると、喉が心配になるくらい声を張るところがあって、これは千秋楽まで保つんだろうかと不安になった。でも2週間あけて見たイアーゴーは、多少声が枯れていたもののそれそれはしっかりと演っていて、良かったと胸を撫で下ろした。それから続けて観劇したけど、どの公演も あれっ喉の調子良いな?って思うくらい、ちゃんとケアできているんだなって安心するくらいのものだった。

だから、千秋楽のカーテンコールで挨拶をする神山くんの声にびっくりした。「喉が可哀想なことになってるんで、マイク上げてもらっていいですか?」と話す神山くんの声は、本当にカサカサで掠れて可哀想なことになっていた。そんなの、舞台上では一度も感じさせなかったのにね。おたくみんな、神山くん喉大丈夫そうで良かったねって話していたのに。昨日のなにわぶ誌でも、イライラするとか 本番前にノイローゼになったとか 本番終わりにぶっ倒れたこともあったとか話していた。それくらい、イアーゴーが神山くんにのしかかっていたんだな。神山くんの身体も心も蝕んでいくように…、9月の神山くんは イアーゴーとして生きて、イアーゴーに取り憑かれるように舞台に居たんだと思う。

 

すごい人だなぁと思った。言葉にするとどうにも簡単になってしまうけど、私の語彙力なんかでは表現出来ないくらい、すごい人。

3年前のブラッドブラザースでは涙をぽろぽろ流していた(本編でたくさん泣いたからとそれからは泣かずに挨拶をしていたけど)、2年前のVBBでは溢れそうな涙を堪えて話していた。きっと今回も泣いちゃうんじゃないかなぁとぼんやり思ってたんだけど、最後は楽しく笑顔でいきたいって 泣かずにしっかりと前を向いて話していた。

芝翫さんとハグするときはちょっとだけ涙を浮かべていたように見えたけど、でもやっと イアーゴーが抜けて神山くんになっていた気がする。逞しくて大きくて立派でかっこよかった。

 

"もっとでっかい人間になりたい"

"これができたんやから もっとできるってハングリー精神を持って、高みを目指して"

と話す神山くんは 私が大好きな神山くんだ。

きっとこの先もどんどん大きくなっていくんだろうな。

 

素敵なカンパニーの中で いろんなものと戦いながら生きた神山くんのイアーゴーは、私の世界の中で一番光り輝いていて美しかったです。

本当に本当に、お疲れさまでした。

 

 

ありがとう!オセロー !

ありがとう!イアーゴー!